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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)13530号 判決 1984年9月13日

原告 星野清

右訴訟代理人弁護士 太田雍也

被告 太陽信用金庫

右代表者代表理事 豊島勝治

右訴訟代理人弁護士 本渡乾夫

同 本渡章

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  東京地方裁判所が同庁昭和五七年(ケ)第一〇四二号不動産競売事件につき作成した昭和五八年一二月二一日付別紙配当表のうち原被告の配当実施額の部分を、原告七一三万九三〇五円に、被告〇円にそれぞれ変更する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、鶴田マサ子に対して、次のとおり計七七一万円の金員を貸し渡した。

(一) 昭和五三年一月ころから同五四年六月中旬ころまでの間に計四〇〇万円。

(二) 同五四年六月二七日に一〇六万円。

(三) 同年六月二八日に八五万円。

(四) 同年九月一四日に八〇万円。

(五) 同五五年四月三〇日に一〇〇万円。

2  原告と鶴田マサ子は、昭和五五年四月一七日、前項の債務を担保するため、その債務不履行のときには、当時鶴田マサ子所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に、原告のために短期賃借権を設定することを内容とする代物弁済予約又は停止条件付代物弁済契約類似の契約(仮登記担保契約)を締結した。そして、原告は、右同日、右権利について本件建物に、賃借権設定の仮登記を経由したが、原告は本件建物を占有・用益したことはない。

3  東京地方裁判所は、協和信用金庫の申立てにより、本件建物につき昭和五七年(ケ)第一〇四二号事件として不動産競売手続を開始し、その後本件建物が売却され、同五八年一二月二一日の配当期日にその売却代金につき別紙配当表を作成したが、同配当表には次のとおり過誤が存する。

原告は、執行裁判所に対して、前記債権について適法に債権届出(元本八〇〇万円、利息六九万円)をなしたし、また、原告が仮登記担保権につき仮登記を経由したのは、被告がその有する根抵当権につき登記を経由した昭和五五年七月二日よりも前のことであるから、原告は被告に優先してその被担保債権につき配当を受領する権利を有する。

4  そこで、原告は、右事件の配当期日である昭和五八年一二月二一日、別紙配当表につき異議を申し立てたが、右異議は完結しなかった。

よって、原告は被告に対して、請求の趣旨記載のとおり、別紙配当表の変更を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は否認する。

2  同2の事実のうち、原告が仮登記を経由したことは認めるが、仮登記担保契約の成立は否認する。

3  同3の事実のうち、本件建物についての競売手続において別紙配当表が作成されたこと、原告は執行裁判所に対して債権届出をなしたこと及び原告の仮登記の方が被告の登記よりも時間的に先に経由されていることは認め、その余は否認する。

三  被告の主張

1  短期賃借権を目的とする仮登記担保権を認めると、後順位権利者の予期に反し、これに不測の損害を与える。

2  仮に、原告主張の仮登記担保契約が存在するとしても、右は被担保債権の特定していない根担保仮登記であるから、競売手続においては何らの効力をも有しないものである。

理由

一  民法三九五条所定の短期賃貸借の制度は、抵当権設定登記後に成立した真正な賃借権を同法六〇二条所定の期間を超えない場合に例外的に抵当権者に対抗しうるものとしてこれを保護し、もって抵当権者に犠牲を強いてもなお保護に値するだけの真正な実体を有する用益(利用)権の確保を図る趣旨であるから、短期賃借権の登記・仮登記を経由していても、当該不動産の換価に着手する時点である差押えの効力発生時に至っても、いまだ用益を開始していない短期賃借権は、用益目的を有しないものと強く推認されるので、価値権と利用権の調整を図った民法三九五条の趣旨から考えて、そもそも同条の保護に値しないものと解するのが相当である。したがって、その法的に裏付けられた財産的評価は無価値と考えられるところ、競売手続においては、仮登記担保権の本来の換価処分の方法である仮登記に基づく本登記手続を経ることによって取得しうる経済的価値以上の利益を仮登記担保権者に与えることはできないと思料されるので、これに対する配当額はゼロとなるものと解される。本件において、原告の短期賃借権が、占有・用益を伴わないものであることは、原告の自認するところである。

二  短期賃借権が仮登記担保の目的となるとすると、短期賃借権は配当を受ける機会を与えられて売却により消滅するが、これは、真正な用益(利用)権の確保という民法三九五条の趣旨に反するし、また、競売手続においては担保仮登記が把握していた財産権の価値を配当により取得させるのが原則であるが、仮に占有を伴わない短期賃借権にも財産的価値があると仮定すると、短期賃借権は先順位抵当権に対抗しうるので、先順位抵当権に優先して配当を受けることにもなりうるであろう。したがって、少なくとも競売手続内においては、短期賃借権は仮登記担保の目的にはなりえないものと解すべきである。

三  被担保債権の特定していない根担保仮登記は、競売手続においては全くその効力を有しないものであるところ、原告の主張によっても、仮登記担保契約(弁論の全趣旨によれば昭和五四年一〇月一八日に締結したと認められる)の被担保債権は特定していないものと認められ、原告もその主張にかかる担保仮登記が根担保仮登記であることを自認しているものとみられるので、原告の主張はそれ自体失当である。

以上のとおり、原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本倫城)

<以下省略>

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